職場の「理解」が育児・介護両立を楽にする:風土・文化を変える企業の取り組み事例
育児や介護と仕事の両立は、多くの働く方々にとって重要な課題です。法定の両立支援制度や企業の独自の取り組みとして、育児休業や介護休業、短時間勤務制度などが整備されてきています。これらの制度が利用しやすくなることは、両立を目指す上で非常に重要です。
しかし、制度があるだけでは、両立がスムーズに進まないケースも見受けられます。制度を利用する際に心ない言葉をかけられたり、急な休みを取ることに強い罪悪感を感じてしまったりといった状況は、働く方の心理的な負担を大きくします。こうした状況の背景には、職場の風土や文化が影響している場合があります。
なぜ職場の風土・文化が両立に影響するのか
職場の風土や文化は、「当たり前」として共有されている価値観や行動規範の集まりです。これが両立に影響を与える主な理由は以下の通りです。
- 制度利用の心理的ハードル: 制度があっても、「迷惑をかけたくない」「評価が下がるのではないか」といった懸念から、利用をためらうことがあります。これは、両立支援制度の利用に対する職場の肯定的な雰囲気が醸成されていない場合に起こりやすくなります。
- 情報共有と連携の質: 育児や介護中は、子供の体調不良や介護対象者の状況変化により、予期せぬ事態が発生しやすくなります。日頃からオープンなコミュニケーションや情報共有が当たり前になっている職場では、周囲の理解を得やすく、スムーズな連携によって業務の調整がしやすくなります。
- お互い様精神の有無: チーム内で誰かが急な休みを取ったり、短時間勤務をしたりすることに対し、「お互い様」という意識が根付いているかどうかも重要です。個々の状況を尊重し、チームとして支え合う文化があれば、安心して両立に取り組めます。
- キャリアへの影響の不安: 短時間勤務を選択したり、育児休業を取得したりした際に、自身のキャリアが停滞するのではないかという不安は少なくありません。両立しながら働くことがキャリア形成の選択肢の一つとして肯定的に捉えられている文化があるかどうかが、働く方の安心感につながります。
職場の「理解」を醸成するための企業の取り組み事例
両立をサポートする職場の風土・文化を育むためには、企業側の意識的な働きかけが不可欠です。ここでは、理解のある職場づくりに成功している企業の取り組み事例をいくつかご紹介します。
- 経営層からのメッセージ発信: 経営層が育児・介護と仕事の両立支援の重要性を繰り返し発信することで、会社全体の共通認識を醸成します。「両立は当然の権利であり、会社として全力で支援する」という明確なメッセージは、働く方々に安心感を与えます。
- 管理職向け研修の実施: 両立支援の最前線に立つ管理職が、制度の知識だけでなく、部下の状況を理解し、適切なサポートを行うためのコミュニケーションスキルやマネジメント方法を学ぶ研修は効果的です。個別の事情に寄り添った対応ができる管理職が増えることで、職場全体の安心感が高まります。
- 社内における成功事例の共有: 育児や介護と両立しながら活躍している社員の事例を社内報やイントラネットで紹介することは、他の社員にとって参考になり、両立が特別なことではないという認識を広げるのに役立ちます。ロールモデルを示すことで、両立しながらもキャリアを継続できるイメージを持つことができます。
- 柔軟な働き方の推進: リモートワークやフレックスタイム制度、コアタイムのないフレックス勤務、短時間正社員制度など、多様な働き方を推進することも風土醸成につながります。働く場所や時間を柔軟に選択できる環境は、個々のライフスタイルや事情に合わせた働き方を可能にし、「違いを認め合う」文化を育みます。
- オープンなコミュニケーションを奨励: チーム内での気軽な情報共有や相談を推奨する文化は、お互いの状況を理解し合う基盤となります。定期的な1on1ミーティングやチーム内での進捗共有の仕組みを整えることも有効です。
- 「〇〇さんちの事情」を当たり前に聞ける・話せる関係性づくり: 制度的な支援だけでなく、同僚間でお互いの家庭の状況(子供の年齢や介護の状況など)を当たり前に共有し、必要な配慮やサポートを自然に行える関係性を築くための、ランチミーティングやチームビルディングなどの非公式な交流も文化醸成に貢献します。
これらの取り組みは単独で行われるのではなく、組み合わせて実施されることで、より効果的に両立をサポートする風土・文化が育まれます。
働く個人としてできること
もちろん、企業側の努力だけでなく、働く個人として職場の理解を促すためにできることもあります。
- 自身の状況を共有する: 育児や介護の状況、利用したい制度、希望する働き方などを、可能な範囲で上司や同僚に共有することは、理解を得る上で重要です。
- 業務への影響と対策を伝える: 制度を利用することで業務にどのような影響がある可能性があるか、そしてそれに対してどのような対策を考えているかを具体的に伝えることで、周囲の不安を軽減できます。
- 感謝の気持ちを伝える: 周囲のサポートに対して感謝の気持ちを言葉や態度で示すことは、良好な人間関係を築き、協力的な雰囲気を育みます。
- 可能な範囲で貢献する: 時間や働き方に制約がある中でも、自身のスキルや経験を活かして貢献しようとする姿勢は、信頼関係の構築につながります。
まとめ
育児や介護と仕事の両立を成功させるためには、法定の制度や企業の具体的な支援策だけでなく、職場の風土や文化が非常に重要な要素となります。お互いを理解し、支え合う文化が根付いた職場では、働く方々は安心して制度を利用し、両立しながら能力を発揮することができます。
企業が主体的に風土・文化の醸成に取り組むこと、そして働く個人もオープンなコミュニケーションを心がけることが、より働きやすく、両立しやすい職場環境を作り上げる鍵となります。両立支援が進んだ職場は、社員のエンゲージメント向上や定着率向上にもつながり、企業にとっても大きなメリットをもたらします。皆様の職場でも、両立を支える「理解」をさらに深めるための一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。