法定だけじゃない:育児・介護両立支援で働きがいを高める企業事例とそのポイント
はじめに:両立の課題と企業の役割
育児や介護をしながら働く方々にとって、日々の仕事との両立は大きな課題となり得ます。予期せぬ子供の体調不良による急な休暇、介護の状況変化への対応、そしてそれらによる自身のキャリアへの影響や職場の理解への不安など、抱える悩みは多岐にわたります。
こうした状況に対し、国は育児休業や介護休業、時短勤務といった法定の制度を整備しています。これらの制度は両立を支える上で非常に重要ですが、個々の状況に合わせた柔軟な働き方や、心理的な負担の軽減といった面では、法定制度だけでは十分に対応できないケースも少なくありません。
そこで重要となるのが、企業が法定の枠を超えて提供する独自の支援策や、両立を自然に受け入れる社内文化の醸成です。企業による積極的な両立支援は、単に制度を整えるだけでなく、働く人々の働きがいを高め、結果として企業の持続的な成長にも繋がります。本記事では、法定以上の両立支援に取り組む企業の事例や、そのポイントについてご紹介します。
法定制度だけではカバーしきれない両立のリアル
育児・介護休業法に定められる育児休業や子の看護休暇、介護休業や介護休暇、そして所定労働時間の短縮措置(時短勤務)などは、働く人々が両立を続ける上での基礎となるセーフティネットです。しかし、これらの制度を利用する際にも、以下のような課題に直面することがあります。
- 突発的な状況への対応: 子の急な発熱や、介護サービスの緊急手配など、予測不能な事態への対応は、法定の休暇制度だけでは日数や時間の制限から難しい場合があります。
- 時短勤務による業務量や評価への影響: 時短勤務を選択した場合、担当できる業務範囲が限られたり、周囲の理解が得られにくい場合には評価への影響を懸念したりすることがあります。
- 情報収集と申請の手続き: 複数の制度や自治体のサービスなど、必要な情報が分散しており、忙しい中で適切な情報を収集し、申請を行うことに負担を感じることがあります。
- 職場の理解と心理的安全性: 制度はあっても、実際に利用する際に遠慮が生じたり、職場の同僚や上司の理解が得られにくい環境では、精神的な負担が増加します。
これらの課題に対応するためには、企業によるより柔軟で積極的な支援が求められます。
法定以上の両立支援に取り組む企業事例
両立支援に先進的に取り組む企業では、法定制度を上回る様々な支援策を導入しています。いくつかの具体的な事例とそのポイントを見ていきましょう。
1. 柔軟な働き方と時間管理
- スーパーフレックスタイム制度: コアタイムを設けず、労働者が日々の始業・終業時刻を自由に決められる制度です。子供の送迎や介護サービスの時間に合わせて柔軟に働くことができます。
- 全社的なリモートワーク・在宅勤務制度: 場所にとらわれない働き方を可能にすることで、通勤時間の削減や、家庭の状況に応じた働きやすさを向上させます。育児や介護と仕事を両立する上で、物理的な負担を軽減する効果が期待できます。
- 時間単位での有給休暇取得: 半日単位だけでなく、1時間単位などで有給休暇を取得できるようにすることで、短時間の私用や通院などに対応しやすくなります。
2. 休暇制度の拡充
- 子の看護休暇・介護休暇の有給化・日数拡充: 法定では無給の場合があるこれらの休暇を有給としたり、法定の日数以上を取得可能としたりすることで、経済的な不安なく必要な時に休みを取りやすくします。
- 独自の特別休暇: 不妊治療休暇、子の学校行事参加のための休暇、介護準備休暇など、特定の目的に合わせた独自の特別休暇を設ける企業もあります。
3. 経済的支援
- 保育料・学童保育料の補助: 働く親の経済的負担を軽減するため、一部または全額を補助する制度です。
- ベビーシッター・病児保育サービスの利用割引: 緊急時や一時的な支援が必要な際に、質の高い外部サービスを利用しやすくするための割引制度や補助金です。
- 介護サービス費用補助: 介護が必要な家族を持つ社員に対し、在宅介護サービスや施設利用料の一部を補助する制度です。
4. 情報提供・相談体制
- 両立支援に関する社内ポータルサイト: 育児・介護関連制度、社内外の相談窓口、両立経験者の声などを集約し、必要な情報にアクセスしやすい環境を整備します。
- 社内相談窓口や外部EAPサービスの導入: 両立に関する悩みや不安を気軽に相談できる窓口を設置し、専門家によるアドバイスを受けられるようにします。
- 両立支援セミナー・研修の実施: 社員だけでなく、管理職向けにも両立支援の重要性や具体的なサポート方法に関する研修を行い、組織全体の理解度を高めます。
5. 復職支援とキャリア形成
- 休業前面談・復職前面談: 休業前後に上司や人事担当者との面談を実施し、休業中の状況共有や復職後の働き方、業務内容について丁寧にすり合わせを行います。
- 復職後慣らし期間への配慮: 復職直後は業務量を調整したり、時短勤務から段階的に通常勤務に戻したりするなど、スムーズな職場復帰を支援します。
- 両立者のためのキャリア相談: 短時間勤務や休業を選択してもキャリア形成を継続できるよう、専門家によるキャリア相談の機会を提供します。
6. 男性の育児休業取得促進
- 男性版育休取得目標の設定と周知: 組織として男性の育児休業取得率向上を目標に掲げ、積極的に取得を推奨するメッセージを発信します。
- 取得者へのインセンティブ: 一定期間以上の育児休業を取得した男性社員に報奨金を支給するなど、取得を後押しする経済的インセンティブを設ける企業もあります。
- 取得者の事例共有: 社内報やイントラネットで男性育休取得者の体験談や、育児と仕事の両立に関する取り組みを紹介し、社内のロールモデルを増やします。
制度を活かす:両立支援を根付かせる社内文化の重要性
どんなに素晴らしい制度があっても、職場で制度を利用しにくい雰囲気がある、上司や同僚の理解が得られない、といった状況では、制度は形骸化してしまいます。両立支援を実効性のあるものにするためには、制度と並行して、以下のような社内文化の醸成が不可欠です。
- 経営層からの積極的なメッセージ発信: トップが両立支援の重要性を繰り返し発信し、社員全員が両立を応援する姿勢を示すことが、組織全体の意識を変える上で最も強力です。
- 管理職の理解促進と研修: 部下の両立を支援するスキルや知識を管理職が持つことは非常に重要です。研修を通じて、両立支援の具体的な方法、チーム内の業務分担の工夫、コミュニケーションの取り方などを学びます。
- チーム内での情報共有と業務の可視化: 誰かが急に休んでも業務が滞らないよう、日頃からチーム内で情報共有を密に行い、業務の進捗状況や担当を可視化しておくことが役立ちます。
- 心理的安全性の確保: 両立に関する悩みや困りごとを、上司や同僚に安心して相談できる雰囲気を作ることが重要です。「お互い様」の精神で助け合う文化が根付いているかどうかが、両立者の働きがいを大きく左右します。
- ロールモデルの可視化: 育児や介護と仕事を立派に両立している社員の事例を積極的に紹介し、多様な働き方が可能であることを示すことも効果的です。
両立支援の取り組みを自身の働き方に活かすには
ご自身の会社にどのような両立支援制度があるか、改めて就業規則や社内ポータルサイトを確認してみることをお勧めします。もし利用したい制度について不明な点があれば、人事部門や産業保健スタッフに相談してみるのも良いでしょう。
また、もし自社の制度が十分でないと感じる場合でも、すぐに諦める必要はありません。両立支援に積極的に取り組む他社の事例を参考に、自身が働きやすくなるためにどのようなサポートがあれば良いかを具体的に考え、信頼できる上司や人事部門に提案してみることも一つのアプローチです。
まとめ:企業と働く人々で創る両立しやすい環境
育児や介護と仕事の両立は、個人の問題ではなく、社会全体、そして企業にとって重要な課題です。法定制度を遵守するだけでなく、企業が積極的に法定以上の支援策を導入し、両立を応援する文化を醸成することは、社員のエンゲージメントを高め、離職を防ぎ、優秀な人材を確保・育成する上で不可欠です。
働く人々は、自社の制度を理解し活用するとともに、より良い両立環境を創るための対話や提案を行うことで、企業と共に両立しやすい環境を築いていくことができます。この情報が、皆様が仕事と育児・介護をより良く両立するためのヒントとなれば幸いです。